男「いきなり何言ってんの」
「だってその子が勘違いしてる気がしてたからさ」
女「(……ち、違うんだ)」
男「……」
男「女さん」
女「……なんですか?」
男「この人は俺の担当で友って言うんです」
女「…た、たんとう?」
友「なんでバラしちゃうかなー」
男「俺だって言いたくなかったよ」
女「担当ってどういうことですか?」
男「……作家なんです」
友「売れない」
男「売れないじゃなくて売れてない」
友「私が担当ってのはバレてないと思ってたけど…」
友「家に来たことあるんでしょ?」
女「一応…」
友「それなのに作家ってのも知らなかったんだ」
男「俺が隠してたから」
女「(……この人は仕事仲間だったのか)」
女「(ちょっと安心)」
女「(……ていうか男さん作家なんだ。どんなの書いてるんだろう)」
友「男君」
男「ん?」
友「この子彼女にするの?」
女「!」
男「当人目の前にしてなんてこと…」
友「真面目に聞いてるだけ」
男「……ま、まだ分からない」
男「というか俺は告白を断られた側だから」
男「いや、断られたというか止められたというか…」アセアセ
女「こ、断ったわけじゃないんですよ」
女「男さんが本気で好きになってないのに無理に言わせたような物だったので」アセアセ
友「(かわいいなこの子)」
友「(最初は仕事に影響出そうだし反対したかったけど…)」
友「いい刺激になるかも」
男「?」
友「ちょっと男君」
友「手間のかかるご飯が食べたい」
男「いつもの冷食は?」
友「いやだ。彼女も来てるんだからそれくらい振る舞いなって」
女「ま、まだ彼女じゃ…!」
男「わかった。じゃあ作ってくるよ」
友「素晴らしい」
女「あ、ありがとうございます」
男「いいんですよ女さんは」
友「そういうのいいからはやく」
男「…………」
………
……
…
友「さて」
女「……あ、あの」
友「ん?」
女「お二人の邪魔してすみませんでした」
女「濃密な時間を過ごすって言ってたましたよね…」
友「あれはあなたの反応が面白そうだと思って言っただけだよ」
友「ストーカーなんて言って私こそごめんね」
女「いえ、本当のことですし…」
友「これまでの話聞かせてよ」
友「男君からは断片的にしか聞いてないからさ」
女「……恥ずかしいです」
友「仲取り持ってあげるから」
………
……
…
30分後
女「……こんな感じですかね」
友「…………」
友「(思ってた数倍強烈な子だ…)」
友「(これをネタに一本書いてほしいくらい…)」
女「……やっぱり引きますよね。すみません」
友「そんなことないよ」
友「男君のことよく想ってるみたいだから私も嬉しい」
女「よ、よかった」ニコッ
友「(……なんだかすごい罪悪感が)」
友「まぁそれより」
女「?」
友「これからも勧誘続けてみればいいと思うよ」
友「毎日会える口実にもなるし」
女「で、でも男さんに一生されたくないって…」
友「いいのいいの」
友「次は商品を変えればいいから」
女「変える…?」
友「そのためには少し頑張らないといけないかもしれないけど」
女「…どういうことですか?」
友「えーとね…」
………
……
…
男「これで満足?」
友「うむ」
女「おいしいです男さん」
男「それはよかった」
友「うまいうまい」
友「作家やめて料理人になれば?」
男「……俺は書く仕事がしたいんだ」
友「じゃあグルメ評論家」
男「…………」
友「冗談だって」
女「…男さんが書いたもの見てみたいです」
男「うーん…」
友「とってきてあげようか」
男「ま、待って」
女「だめですか?」
男「気恥ずかしいというか…」
男「(こう言われると思って隠してたのに…)」
女「分かりました」
女「男さんが見てもいいって言ってくれるまで待ちます!」
男「ありがとう…」
友「(いい雰囲気じゃないか)」
翌日 夜
コンコン
男「はーい」
ガチャ
女「……こんばんは」
男「女さん…!」
女「来ちゃいました」
男「びっくりした…」
男「ていうかいつものスーツじゃないですね」
男「今日も仕事お休みだったんですか?」
女「いえ、朝からずっと働いてました」
女「勧誘は下手なんで営業所の中でも最下位争いばかりだったんですけど」
女「夜は男さんに会うのをご褒美にしようって思ったら頑張れました」
男「……」
女「土日はなるべく休み取りたいんで平日の朝から夕方までで」
女「せめてノルマはクリアしたくて…」
女「そしたら男さんに会える時間も取れそうですし」ニコッ
男「……」
男「夜は仕事に充ててないんで家にはいつもいます」
男「土曜日は毎週映画に行くので…」
男「日曜日ならいつでも大丈夫です」
女「ほ、ほんとですか」
女「うれしいです」
女「それだけたくさん会えると思えばつらくても平気です!」
男「(俺も頑張らないと…)」
男「今日は遊びに来たんですか?」
男「家あがります?」
女「…………勧誘に来たんです」
男「勧誘ですか…」
男「まぁ今なら契約してもいいですけど」
男「ノルマのためにも…」
女「新聞じゃないです」
男「?」
女「私です」
男「え?」
女「私を売りに来ました」
男「なにを」
女「一ヵ月試しにとってみませんか?」
女「サービスしますよ」
男「サ、サービスって…」
女「わかりますよね?」
女「大人なんですから」
ピリリリ
女「あ、時間です」
男「!」
女「今日の勧誘はここまでにします」
女「急にすみませんでした」
男「は、はい」
男「それは構わないんですが…」
女「では失礼します」
バタン
男「行ってしまった…」
男「……」
男「どんなサービスだったんだろ……」
翌日 夜
ピリリ
男「メールか…」カチカチ
女『今日は勧誘に行けそうにありません』
男『そうですか。お仕事お疲れ様です』
女『今日こそはサービスできたら、と思っていたのですが』
男「…………」
男『その気持ちだけでうれしいです』
女『男さん意外と冷静なんですね』
女『またいつか勧誘しに行きます』
男「いつか…」
男「…………」
翌日 夜
男「…………」
男「…………」
男「来ないな…」
男「メールもないし…」
男「…………」
男「さみしい気もする」
男「…………」
男「仕事忙しいみたいだし」
男「しょうがないか…」
男「…………」
男「他の家で新聞勧誘してると思うと変な感じだ…」
男「ノルマ取るために頑張ってるんだろうな」
男「…………」
翌日 夜
男「…………」
男「…………」
ピリリリ
男「!」
男「電話だ」
ピッ
男「もしもし」
女「ふふ。こんばんは」
男「なんで笑うんですか」
女「だって電話取るのすごいはやくて…」
男「(メール待ってて携帯持ってたなんて言えない)」
男「そうですか」
女「やっぱり冷静ですね」