国民的人気アニメ『ドラえもん』には、二次創作がたくさん存在します。この作品は完成度が高く一読の価値があります。
のび太「ううん、何でもないよ。それより研磨は終わったかい?」
学生「はい。これでもうバリはないはずです」
のび太「本体側のインターロック回路も大丈夫?」
学生「はい、動作確認済みです」
のび太「よし。じゃあモータを駆動してみようか」
青い球体の中にギアボックスを収められるのを、のび太は少し離れて見守っていた。
のび太がもう一人立ち出来る、別れを割りきれる年齢と判断したらしい。
高校の類型選択で、のび太は何となく理系を選択した。数学や理科が得意なわけ
ではないが、国語や英語も別に得意ではなかった。
相変わらずの適当さでのらりくらりと高校を卒業し、藤子大学の工学部に入学し
たのび太は、そのまま大学院まで進学し、博士課程を修了する。
今ではその藤子大学工学部ロボット工学科で助手をしていた。
れた。
???「野比先生!」
のび太「ん?ああ、しずかちゃん」
しずか「うふふ。まさかのび太さんのことを先生って呼ぶことになるとはね」
のび太「慣れないなあ、その呼び方」
のび太はガシガシと頭を書く。ボサボサの髪の毛が余計ボサボサになる。
高校が別れてから疎遠になりがちだったしずかと、藤子大学の図書館で再開した
のはつい最近のことだった。彼女は大学図書館で司書として働いているらしい。
しずか「それより、のび太さんまたラーメン?」
のび太「うん。でも昨日はカップの塩ラーメンで、今日は生協の醤油ラーメンな
んだよ」
しずか「…………」
のび太「そうかな?でもこないだしずかちゃんに言われてから、ヒゲは毎朝剃るよ
うにしたんだよ」
しずか「それだけじゃダメよ。他に……」
のび太「他に?」
しずか「そうね、まずその伸ばしっぱなしのボサボサ髪を綺麗に切って整えて、
丸眼鏡をオシャレフレームに変えて、背筋を伸ばして、ヨレヨレの白
衣を洗濯してアイロンかけて……」
のび太「………いろいろダメみたいだね」
のび太「ん?」
しずか「のび太さんの研究室で作ってるアレ……ドラちゃん?」
のび太「……うん。といっても、形だけだよ」
しずか「そうよね……」
のび太「情報工学科との共同開発でね、言語学習型のコミュニケーションロボッ
ト。そのロボットのデザインを、ドラえもんにしてみたんだ。周りから
はなんでそんなデザインに』って言われたけど」
しずか「のび太さんらしいわ」
のび太「けど、本物のドラえもんには程遠いよ」
のび太「実際、今の科学じゃドラえもんは無理なんだ」
しずか「あら、出木杉さん」
のび太「出木杉くん……その呼び方はやめてよ」
出木杉「いいじゃないか。助手になったのはのび太くんの方が先なんだし」
のび太「君のいる情報工学科とは違って、うちは慢性的な人手不足だから……そ
れだけの理由だよ」
出木杉「謙遜するなって」
のび太「そんなことないよ……現に今の共同開発だって君が皆を引っ張ってるし
ね。出木杉くんの方が、やっぱり僕より優秀だよ」
のび太「ああ、あのコミュニケーションロボットの方のね」
しずか「言葉を学習するって聞いたわ」
出木杉「まあ、多少はね。でも22世紀からきた、あのドラえもんほどのAIはとて
も無理だ」
しずか「そう……」
のび太「……本当に、ドラえもんの言っていたような未来が来るのかな?」
しずか「どういうこと?」
のび太「ドラえもんが言っていた年までに、今の科学があそこまで進歩するなん
て思えないよ」
出木杉「僕もそう思うな。今の科学では到底無理だ」
しずか「でも、ドラちゃんはそう言ったのよ?」
のび太「それが気になるんだ……どうしたってドラえもんの言っていた年には間
に合わない」
のび太「なぜドラえもんは嘘をついたんだ?」
のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫、出木杉。
のび太としずかと出来杉の3人が顔を合わせたので、どうせならみんなで飲もう
という話になったのだ。
ジャイアン「しかしのび太が大学の先生だなんてよー、何回聞いても笑えるよなw
ww」
スネ夫「出木杉はしっくりくるのになwww」
のび太「どうせ馬鹿ですよーだ……」
ジャイアン「で、なんなんだよ?話って」
出木杉「いや、実はね……」
呟いたスネ夫がスーツのポケットから煙草を取り出そうとし、しずかの方を見て
やめた。
ジャイアンは逞しい腕を組み合わせ、考えこんでいる。
スネ夫は大学卒業後親の会社に入り、ジャイアンは高校を中退して剛田商店を継
いだと聞いている。
スネ夫「僕はのび太や出木杉みたいに専門じゃないけどさ、今の科学でドラえも
んが作れないことはわかるよ」
ジャイアン「待てよ、俺テレビで見たぜ。二足歩行したり、会話するロボット」
出木杉「ああいうのとはレベルが違うよ」
ジャイアン「でもよぉ……そもそもドラえもんが出来たのっていつだ?」
スネ夫「確か、2112年」
出木杉「無理だよ。今の開発段階からドラえもんまでの間にある壁は、あまりに
も高く厚い。感情を持って、思考して、なめらかな動作も必要。今のロ
ボットはね、走るのさえ難しいんだよ?」
しずか「それにドラちゃんより先に秘密道具が必要よ」
のび太「うん、秘密道具はドラえもん誕生以前に出来てたはずだよ。それに、ド
ラえもんの話が本当ならタイムマシンはもう出来てるはずなんだ」
ジャイアン「え?」
のび太「ドラえもんは言ったんだ……タイムマシンが発明されたのは2008年だって」
ジャイアンは黙ったまま、店内を見回した。
そして、カレンダーを見ると目を見開く。
ジャイアン「2008年って、去年じゃねぇか!!」
スネ夫「反応遅っ!」
出木杉「……その話は僕も初耳だったな」
のび太「つまり、ドラえもんの話にはすでに矛盾が生じてるわけだ」
カルーアミルクのグラスを置いて、しずかが口を開いた。
みんなの酒のペースは格段に遅くなっていた。
しずか「でも、まだドラちゃんが嘘をついたとは限らないわ」
スネ夫「ま、断定は出来ないね」
ジャイアン「おい、何でだよ。俺にわかるように言えよ」
出木杉「つまり、ドラえもんがいた未来と僕らの未来は違う……未来が変わった
可能性もある」
スネ夫「本来は今年中にタイムマシンが出来てるはずなのに、その未来がねじ曲
げられた」
出木杉「そう。その可能性は高いだろうね」
のび太「問題はどこまで未来が変わったのかだね。タイムマシンが遅れただけな
らいいけど、最悪……」
しずか「ドラちゃんが、作られない?」
スネ夫「かもね……」
ジャイアン「おい、何でだよ。俺にわかるように言えよ」
出木杉「なんだい?」
スネ夫「確かに、今の科学じゃドラえもんの道具やドラえもん自体の開発は考え
られない。でも、今の科学を急激に発達させる何かがあったとしたら?」
のび太「何かって?」
出木杉「戦争があると技術が発達するっていうよね」
しずか「そんなまさか……」
スネ夫「待って待って!そんな物騒な話じゃないんだ。例えば、宇宙人が地球に
来たとする。彼らは未知の文明を持っていて、彼らの技術を参考に地球
の科学が爆発的に飛躍するんだ」
しずか「宇宙人が……?」
のび太「確かに、なくもない」
出木杉「おいおいのび太くん、科学者らしからぬ発言だね」
のび太「いや……僕らはドラえもんの道具で何度か宇宙に行き、その星の文明に
接しているんだ。宇宙人を否定できない」
とか……とにかく、爆発的な科学の進歩によって2112年までにあのレベ
ルに達する。そういう可能性もあるんじゃない?」
のび太「ありうるね。それならタイムマシンが遅れただけのことになる」
しずか「確かに……」
出木杉「考えられなくはないな。未来人か……」
ジャイアン「さっぱりわからん」
のび太「でも未来が変わるのを、タイム・パトロールが見逃すかな?」
スネ夫「大きい変化なら見逃さないだろうけど、小さい変化なら自然修復できる
って考えじゃない?」
のび太「でもさ、2008年にタイムマシンが出来なくなったのなら、ドラえもんが
その情報を持っているはずがない。すると僕がそれをドラえもんから聞
くこともないはずなのに、僕は聞いて、今も覚えている。これって矛盾
しないかな?」
出木杉「タイム・パラドクスか……」
ジャイアン「まず俺のパラドクスを何とかしてくれ」
支援
22世紀からドラえもん、ドラえもんでは無かったとしても未来の誰かが過去に行った時点でその先の未来は未定になってしまうのだから
元々辿ってきた歴史そのものが、元々未来人の介入があったものだと考える事も出来る。
ようは、未来を変えたつもりが、それこそが既に歴史の一部だった、という。
こじつけだけどな。
既定事項です
しずか「あんなにドラちゃんと一緒にいたのにね……」
スネ夫「どう足掻いても無駄さ、僕らは現代人なんだもの」
のび太「現代人……か」
出木杉「結局、僕らは僕らの科学を進めるしかないんだろうね」
しずか「のび太さんと出木来杉さんのロボットみたいに?」
スネ夫「へぇ。なんなのさ、そのロボットってのは?」
出木杉「僕のいる情報工学科とのび太くんのいるロボット工学科の共同開発で、
コミュニケーションロボットを作ってるんだ」
スネ夫「へぇ……のび太のくせに生意気だなww」
のび太「懐かしいな、そのセリフ」
ジャイアン「ようやく俺にもわかる話題になってきたぜ!」