【死ぬ程洒落にならない怖い話】禁后(パンドラ)

中編

その空き家から一番近かった私の家に駆け込み、大声で母を呼びました。

泣きじゃくる私とD妹、汗びっしょりで茫然とする男三人、そして奇行を続けるD子。

どう説明したらいいのかと頭がぐるぐるしていたところで、声を聞いた母が何事かと現われました。

「お母さぁん!」

泣きながらなんとか事情を説明しようとしたところで、母は、私と男三人を突然ビンタで殴り怒鳴りつけました。

「あんた達、あそこへ行ったね!?あの空き家へ行ったんだね!?」

普段見たこともない形相に、私達は必死に首を縦に振るしかなく、うまく言葉を発せませんでした。

「あんた達は奥で待ってなさい。すぐみんなのご両親達に連絡するから」

そう言うと母はD子を抱き抱え、二階へ連れていきました。

私達は言われた通り、私の家の居間でただぼーっと座り込み、何も考えられませんでした。

それから一時間ほどは、そのままだったと思います。

みんなの親たちが集まってくるまで、母もD子も二階から降りて来ませんでした。

親達が集まった頃に、ようやく母だけが居間に来て、ただ一言

「この子達があの家に行ってしまった」

と言いました。

親達がざわざわとしだし、みんなが動揺したり取り乱したりしていました。

「お前ら!何を見た!?あそこで何を見たんだ!?」

それぞれの親達が一斉に我が子に向かって放つ言葉に、私達は頭が真っ白で応えられませんでしたが、
何とかA君とB君が懸命に事情を説明しました。

「見たのは鏡台と、変な髪の毛みたいな・・・あと、ガラス割っちゃって・・・」

「他には!?見たのはそれだけか!?」

「あとは・・・何かよくわかんない言葉が書いてある紙・・・」

その一言で、急に場が静まり返りました。と同時に、二階からものすごい悲鳴。

私の母が慌てて二階に上がり、数分後、母に抱えられて降りてきたのは、D子のお母さんでした。

まともに見れなかったぐらい、涙でくしゃくしゃでした。

「見たの・・・?D子は引き出しの中を見たの!?」

D子のお母さんが私達に詰め寄り、そう問い掛けます。

「あんた達、鏡台の引き出しを開けて、中にあるものを見たか?」

「二階の鏡台の三段目の引き出しだ。どうなんだ?」

他の親達も問い詰めてきました。

「一段目と二段目は僕らも見ました・・・三段目は・・・D子だけです・・・」

言い終わった途端、D子のお母さんがものすごい力で私達の体を掴み、

「何で止めなかったの!?あんた達、友達なんでしょう!?何で止めなかったのよ!?」

と叫びだしたのです。

D子のお父さんや他の親達が必死で押さえ、

「落ち着け!」「奥さんしっかりして!」

となだめようとし、しばらくしてやっと落ち着いたのか、D妹を連れて、また二階へ上がっていってしまいました。

そこでいったん場を引き上げ、私達四人はB君の家に移り、B君の両親から話を聞かされました。

「お前達が行った家な、最初から誰も住んじゃいない。あそこは、あの鏡台と髪のためだけに建てられた家なんだ。
オレや他の親御さん達が子供の頃からあった。あの鏡台は実際に使われていたもの、髪の毛も本物だ。
それから、お前達が見たっていう言葉。この言葉だな?」

そういってB君のお父さんは紙とペンを取り、
『禁后』と書いて私達に見せました。

「うん・・・その言葉だよ」

私達が応えると、B君のお父さんはくしゃっと丸めたその紙をごみ箱に投げ捨て、そのまま話を続けました。

「これはな、あの髪の持ち主の名前だ。読み方は知らない限りまず出てこないような読み方だ。
お前達が知っていいのはこれだけだ。金輪際、あの家の話はするな。近づくのもダメだ。
わかったな?とりあえず今日は、みんなうちに泊まってゆっくり休め」

そう言って席を立とうとした

B君のお父さんに、B君は意を決したように、こう聞きました。

「D子はどうなったんだよ!?あいつは何であんな・・・」

と言い終わらない内に、B君のお父さんが口を開きました。

「あの子の事は忘れろ。もう二度と元には戻れないし、お前達とも二度と会えない。それに・・・」

B君のお父さんは、少し悲しげな表情で続けました。

「お前達はあの子のお母さんから、この先一生恨まれ続ける。今回の件で誰かの責任を問う気はない。
だが、さっきのお母さんの様子でわかるだろ?お前達は、もうあの子に関わっちゃいけないんだ」

そう言って、B君のお父さんは部屋を出ていってしまった。

私達は何も考えられなかった。

その後どうやって過ごしたかもよくわからない。

本当に長い一日でした。

それからしばらくは、普通に生活していました。

翌日から、私の親もA達の親も一切この件に関する話はせず、D子がどうなったかもわかりません。

学校には一身上の都合となっていたようですが、一ヵ月程してどこかへ引っ越してしまったそうです。

また、あの日、私達以外の家にも連絡が行ったらしく、あの空き家に関する話は自然と減っていきました。

ガラス戸などにも厳重な対策が施され、中に入れなくなったとも聞いています。

私やA達は、あれ以来一度もあの空き家に近づいておらず、D子の事もあってか疎遠になっていきました。

高校も別々でしたし、私も三人も町を出ていき、それからもう十年以上になります。

ここまで下手な長文に付き合ってくださったのに申し訳ないのですが、結局何もわからずじまいです。

ただ、最後に・・・

私が大学を卒業した頃ですが、D子のお母さんから私の母宛てに、手紙がありました。

内容は、どうしても教えてもらえなかったのですが、その時の母の言葉が意味深だったのが、今でも引っ掛かっています。

「母親ってのは、最後まで子供のために隠し持ってる選択があるのよ。もし、ああなってしまったのが
あんただったとしたら、私もそれを選んでたと思うわ。それが間違った答えだとしてもね」

代々、母から娘へと、三つの儀式が受け継がれていた、ある家系にまつわる話。

まずはその家系について説明します。

後編

その家系では、娘は母の『所有物』とされ、娘を『材料』として扱う、ある儀式が行われていました。